【シリーズ:病院長の植物園(第12回)】みかん
2023.03.03
コロナの流行が少し落ち着いています。今のうちに散歩でもしましょう。
病院の近くの佐世保橋から下を見ると、鴨の夫婦が二組、のどかに泳いでいました。もう少し水がぬるむと、魚たちの泳ぐ姿を見ることができるのでしょうが、今はまだ、魚の影は見当たりません。
川沿いのサクラのつぼみは相当に膨らんで、開花のきっかけを待っています。
さくらの種類によっては、すでに満開近いというニュースも届いています。
佐世保川のサクラは、染井吉野です。江戸の植木職人がいくつかの種類を掛け合わせて創り出したと言われています。上野公園にはその最初のソメイヨシノがあるそうです。
上野公園には大きな桜の木がたくさんあるので、最初の染井吉野はそのうちのどれだろうと考えながらいつも歩きます。桜の木は、花ばかりを見ずに、ぜひ幹と根を見てください。そこには、長い年月を、雨にも嵐にも耐えて生き抜いた証しがあります。
人で言えば「肌」でしょうか。お年寄りの肌には、日に焼け病気を乗り越えた美しさがあります。手術や怪我でついた身体の傷は、その人だけの人生の痕跡です。人生の宝です。患者さんの傷を見て、いつも私はそう思います。
さて、今朝は外に出てみると、空が冷たく青く澄んでいました。
そしてマンションのベランダに並んでいる盆栽たちの中に、黄色く実った「みかん」がありました。黄色は青空に映えるので、そのふたつを組み合わせた写真を撮りました。小指の頭ほどの小さな「みかん」です。盆栽用語では「キンズ」といいます。金の豆です。キンカンの矮性種だと思います。
このところ、NTTが電波塔の工事をやっていました。私の住居の裏なのです。
どうやらできあがったようで、騒音が止みました。「みかん」と「電波塔」は何らの関係もありませんが、どちらも青空に向かって伸びているようです。
もうすぐ春です。それでもコロナはまた来るでしょう。
しかし、やがては、季節の中に溶け込んでいくはずです。