【シリーズ:病院長の植物園(第10回)】クスノキ
2022.10.26
先週のこと。岡山の友人に誘われて書道展に行きました。
彼は書道家で、水墨画や篆刻もできる産婦人科医なのです。
わたしが長崎大学産婦人科教授だったとき、彼は岡山大学産婦人科教授で、仲良しでもあり競争相手でもありました。
同じように教授職を退任して名誉教授になった7人の仲間で、毎年、家族旅行にでかけます。
来年はわたしの順番なので、小値賀島と野崎島を案内しようと準備中です。
何か情報をお持ちの方はお知らせいただけると幸いです。
土地に染み付いた歴史と、海が素敵なので気に入っています。
さて、岡山の書道展に出展されている友人の書には、わたしの本から選んだ言葉が書かれていました。
「人がどこから来たのかという問いに自分なりの解答を見出すための一手段として胎児を見守りその存在の意味を考えてきた。人が人の生命のこと以上に考えるべき命題があるだろうか」そういう言葉が、自分にはとても書けない美しい筆遣いで書かれています。
私は自分の文章を他人事のように眺めました。
翌日は予讃線で瀬戸内を渡り、いくつか電車を乗り継いで、宮ノ下という港から船にのりました。
志々島というところへ行くのです。
そこには樹齢千年のクスノキがあるというので、以前から行ってみたかったのです。
通常クスノキは上へ上へと成長しますが、この木は横に広がっていて、地上2メートルあたりから巨大な枝が10メートル以上も真横に伸びています。
それは一抱えほどもあり、自身の重さに耐えかねたのか付け根で割れ、わずかな表皮だけで幹とつながっています。
いくつも気根を出しているので、その枝は生命の危機を感じていたことが分かります。
わずかな表皮だけを頼りに生き残っている様子は、まったく不思議な光景でした。
クスノキは病院の回りや佐世保のあちこちに立っています。
この頃は、クスノキに緑色の実が付いています。
それをちぎって爪でひっかくと樟脳の匂いがします。
私はそれが嫌いではないので、信号待ちの時など、たわむれにちぎってみるのです。
岡山の友人が、書道展に飾られていた書を贈ってくれました。
当院2階の遺伝カウンセリング室の横に飾ってあります。ぜひご覧になってください。
コロナの第7波が落ちついています。
今のうちに秋の風情を楽しみましょう。
つるべ落としの秋が深まり山の色が変化します。
山に行ってみたい季節です。